穢れなき罪について
その少女は、柄の悪い酒場が建ち並ぶ一画の、消えかけた街灯の下にひとり立っていた。
陰鬱な雨が空からぽろぽろと零れるなか、弱々しく点いたり消えたりを繰り返す街灯は、この辺りにたむろする連中の刹那的な人生を映しとったオブジェのようで、見るたび気が滅入るものだった。だからこそ少女は、その場所で唯一、周囲の風景とまったく不釣り合いな存在に見えた。まっすぐな金色の長髪から雨粒を滴らせ、黒の外套が濡れるのも構わず立ち尽くす姿は、さびしそうではあったが、疲れ果てた人間が纏う諦念のようなものを漂わせてはいなかったのだ。
「どうしたんだい、君。道にでも迷ったの?」
なるべく好青年を装って声を掛けると、少女は顔を上げた。先ほどは髪が邪魔になってはっきりと顔が見えなかったが、こちらを向いた顔は驚くほど小ぶりで、唇や鼻の形も整っており、なによりも左右にひとつずつ埋まる金色の大きな瞳が、宝石を思わせるほどきらめいていた。美しい少女、それもとびきり。そう分かった途端、これは幸運だと、頭の中で暗い声がつぶやいた。
「こんなところに居たら危ないよ。知らないかもしれないけど、この辺りはあまり治安がよくないんだ。行く場所がないなら、よかったら僕の家に……」
「あんた、ひとり?」
ほとんど瞬きもしないまま、少女は問うた。幼い見た目に反して、随分と尊大な口ぶりに驚いたが、常識を知らない田舎娘なのだろうと思い、そうだよ、と快く答えた。
「ならさ、今晩はオレと一緒に居てよ。恋人に捨てられて、さびしいんだ、オレ」
ねえ、と言いながら、外套から辛うじて覗く小さな手で、袖口を引いてくる。動作も声も子供そのものだったが、こちらを見る瞳だけはどこか達観しているようで、こういうことには意外と慣れているように見えた。少女がもう処女ではないことを察してわずかに落胆はしたが、それでもこれほど美しい少女を抱ける機会などそう多くはない。それに、相手もそのつもりなら、あれこれ言って騙す必要もないのだと楽観的に捉え、ほほえみながら少女の手を握った。
ついてきて、と歩き出した少女に手を引かれるまま向かった場所は、いかにも古めかしいアパルトマンだった。一歩踏み出すごとに軋む階段をのぼり、埃っぽい廊下を突きあたった先に、目的の場所はあった。錆び付いた鍵を差し込んで扉を開くと、黴臭くこじんまりとした部屋が姿を現した。
「ここが君の家?」
粗末な部屋だと思ったが、それが表に出ないよう取り繕いながら足を踏み入れた途端、視界に飛び込んできたものにぎょっとして立ち止まった。シングルのベッドと洗面台、机だけでほとんどいっぱいになっている部屋の窓際に、何故か巨大な鎧が置いてあったのだ。ベッドを俯瞰する位置にあるそれは、脱力した姿勢で床に座り、うなだれるように頭を下へ向けていた。
「なに、それ?なんで鎧?」
動揺を隠せぬまま問うと、少女は平然と、ああ、と言葉を返し、その頭部を取り去った。中身は、空。
「前の住人の忘れ物だよ。それより、さ……」
音もなく歩み寄ってきた少女は、いきなり身体へ抱き着いてきた。流れるように背から腰へ指を這わせると、ゆっくりと膝立ちになり、ズボンの前開きへ鼻を擦りつけてくる。
「してよ。オレ、さびしいんだ」
ね、と小首をかしげ、段々と硬くなるものへ布越しに舌を這わす。いくらなんでもここまで手慣れていると思っていなかったため呆気に取られたが、こちらを見上げる金色の瞳が熱っぽく潤んでいるのを認め、反射的に口を緩ませた。
たまには淫乱な女を抱くのも悪くない。詐欺まがいの娼婦かもしれないが、法外な料金を請求されたら、顔でも一発殴って逃げればいい。
少女の求めに応じてベルトのバックルを外し、ズボンの中から昂った性器を取り出すと、小さな顔の前へと差し出した。少女は見とれるように目を細め、ほうっと熱い息を吐きかけると、桃色の唇でためらいなくそれを咥え込む。
狭い口内でうねる舌遣いは稚拙で、決して上手くはなかったが、美しい少女に奉仕されている高揚感で、段々と眩暈を覚えてくる。しかし達するには至らず、性器を少女の口から引き抜くと、小さく丸い頭をなでた。
「服を脱いで、君のすべてを見せて」
やさしく語りかければ、少女は白い頬を朱に染めながら、唾液で湿った唇を噤んでほほえむ。意外と中身は初心なままなのだろうか。そう思わせる愛らしい笑みに見惚れていると、少女は床から立ち上がり、濡れた外套を床へ落として、ベッドへ身を移した。
外套の下に来ていた白いシャツも雨に濡れているようで、ところどころ肌に貼りついていた。焦らすように少女は先に靴を脱ぎ、ベルトを外して黒のスラックスを取り去る。するとそこから現れた脚が、白い肌ではなく金属でできていたものだから、思わず、え、と声を漏らした。
「オレ……義足なんだ。右腕も義手。昔、事故に遭ってさ」
翳らせた瞳にどこか自嘲めいたものを浮かべ、少女はこちらを見る。
「こんな身体の女は、いや?」
眉を下げ、小首を傾げながら投げかけられた問いは、あまりにも切実で憐憫を誘った。もちろん意外だったが、まさかここまで来て抱くのをやめようとは思わない。案外これで前の男に捨てられたのだろうかと思いつつ、とんでもない、君は綺麗だ、と声をかけると、少女は安堵した様子でにっこりと笑い、今度はシャツのボタンへ指を掛けた。
「待って。やってあげる」
庇護欲をそそられて少女を制止すると、シャツの胸元へ手を伸ばす。濡れて滑りやすいボタンをひとつずつ丁寧に外し、肌に貼りついたシャツを脱がせ終えると、ふっくらとした胸元が露わになる。いかにも少女が好みそうなレースの下着に包み込まれた胸は小ぶりだったが、下から持ち上げるようにしてふれてみると弾力があり、やわらかく肉がしなった。下着越しとはいえ、敏感な部分をさわられた少女は、頬を赤らめながら甘い声を漏らす。
「声、かわいいね。もっと聞かせて」
少女の耳もとへささやくと、さらに強く胸をこね回しながら、耳朶へ舌を這わす。少女がたまらず身動ぎしたのを見逃さず、その隙に背中のホックを外し、下着を取り去った。
現れたのは、期待どおりの丸く白い小丘だった。全体に対してすこし大きめの乳輪もその先端も、奥ゆかしい桃色に色づいており、一気に下半身に熱が宿る。まだ、まだだと自らに言い聞かせ、指先を弾力のある肉へうずめながら、ぴんと張った先端を舌で弾く。
「んっ……ふぁっ、……っ」
刺激を与えるたび、少女は甘く鼻を鳴らし、瞳をとろりと細めてゆく。片方だけだと可哀想だからと、もうひとつにも同じことをし、乳輪ごと唇で食んでやると、たまらなさそうに身をよじる。
「あっ、ひう……、……ッあ……アル……っ!」
突然発せられた名前に面喰い、え、と口を離しても、少女は頬や首を上気させ、熱い呼吸を繰り返している。「アルって?」と問うと、やっと自分がなにを口走ったのかに気付いたようで、誤魔化すように笑顔を作る。
「なんでもないよ。ねえ、いいから続けてよ」
な、と強請りながら赤い舌先を出すと、少女はそのままこちらの首へ腕を絡ませ、唇へと吸い付いてくる。口内へ舌を差し入れ、唾液を味わうように舐め回すと、今度はこちらの舌へ絡みつけ、自らの口内へと誘う。
くちづけを強請られ、胸の先を肌に擦り付けられれば、もう先ほどの名前などどうでもよくなった。ねとりと粘度の高いくちづけを受け止めながら、火照った胸を揉んでやれば、少女はさらなる熱を欲しがり細い腰をくねらせる。本当に、とんだ色狂いを引き当てたものだ。自分の幸運に感謝しながら、片手を胸から腰へ滑らせると、脚の付け根の窪みへ挿し入れ、下着越しに刺激した。
「ふっう……う……っ……んんっ、……っ!」
唇を塞がれたまま、少女は火照った悲鳴を上げる。もっと追いつめたくて、はしたなく水音を立てる下着を割れ目に沿って上下に擦り、ぷくりと腫れあがった芽を摘まんでやれば、少女は唇を離して激しく仰け反った。
「ひゃぁっ!や……あっ、アル……アルぅっ!」
「ねえ、それ誰?」
大方、この間捨てられたという男の名前だろう。行きずりの相手とはいえ、行為中に他の男の名を呼ばれるのは気分が悪い。腹いせのつもりでもう一度力任せに肉芽を摘まみ、引っ張るようにしながら少女の上半身をベッドへ突き倒す。
「いい?俺の名前はハンス。間違えないで」
苛立ちを気取られないように、できる限り穏やかな口調で命じれば、少女は呆けた顔で首を縦に振る。そのまま、足を開いて、と命じてやれば、素直に指示に従い、すでに湿って秘部に貼りついた下着を惜しげもなく露わにする。上と同じく、白のレースで縁取られた少女趣味な下着。その布越しに舌を当て、筋に沿って舐め取ってやれば、ぐちゅぐちゅと淫蕩な音がする。あっ、あっ、と声を引きつらせ、快感で身をよじる少女は、目に涙を溜めながら物欲しげな顔でこちらを見る。もうすこし布越しに焦らしてから、今度は腰を上げるよう命じると、また大人しく言うことを聞いたため、下着を取り去ってしまう。
現れた恥丘には産毛すら生えておらず、子供のもののようだったが、その下で愛液を漏らしている熟した粘膜との対比が、眩暈を起こすほど淫らだった。思わずごくりと唾を呑み込んだあと、シャツを脱ぎ去り解きかけのベルトを抜き取ると、ズボンと下着を同時に下ろした。
「まって……。このまま、しないで」
すでに痛むほど起ちあがった己のものを掴み、いざ挿入しようと覆いかぶさったとき、少女はそんなことを言った。
「は?今さら最後までしないって言うの?」
「違う。あっち向いて、やって」
少女が指さした先は、部屋に入ったとき真っ先に目に飛び込んできた例の鎧だった。あの空の鎧が一体なんだと言うのだ。不可解なことで焦らされた怒りに不快感を覚えながら視線を戻すと、少女は潤んだ金色の瞳で、媚びるようにこちらを見ていた。
「後ろから、犯して、オレのこと。あっち向くからさ、お前は後ろから」
この少女は、どこか頭がおかしいのだろうか。それともただ、後ろから突かれるのが好きな変態なのだろうか。心は警戒しろと叫んでいるのに、なあ、と強請りながら指先で張りつめた性器をなでられれば、獣の本能が圧倒的に勝ってしまう。一度するくらい、どうってことない。それに、こんなにも美しい少女に犯してと懇願されることなど、今後の人生でもうないだろう。本人が望んでいるのだから、言うとおりにしてやればいいだけだ。
半ば自暴自棄になりながら、わかったよ、と告げると、少女は嬉しそうに鎧のほうを向き、四つ這いになる。その背後へ回ると、ひくひくと誘う赤い割れ目へ、硬くなった先端をねじ入れる。
「うっ……ひぐ……、く……ぅ、っ!うぁっ……っ!」
快感ではなく痛みを感じているとしか思えない声を出しながら、少女は項垂れ身体を震わせる。両手でシーツを強く掴み、肩を揺らして呼吸を整えようとしているが、構わずさらに奥へ押し入ると、また獣のような声を出す。
「あ……ぁああっ!……ひゃ……アルぅ……ん、アルっ!」
「だからハンスだって」
咎めるために軽く尻を叩くと、少女は鋭い悲鳴を上げ、背中を仰け反らせる。同時に性器を包む肉壁がきゅうと締まったものだから、快感で意識が飛んでしまいそうになる。少女も同じなのか、こちらの言葉など聞こえなかったかのように、アル、アル、と、誰のものとも知れぬ名を呼び続ける。いっそ喋れぬようにしてしまおうかと、背後から両胸を鷲掴みにして上半身を持ち上げると、振り返った顔へくちづける。先ほどよりも奥へ舌をねじ込みながら腰を打ち付けると、手の平の中で少女の乳房がふるふると震える。
「んふっ……アルぅ……っ……やだ……んう…アル、がぁ……見えないからぁ……」
唇を離すと、少女はまた意味の分からないことを言い、前方を見る。視線の先を辿れば、先ほどから微動だにしていない鎧と目が合った気がして、腹の奥に冷たいものが走る。一方の少女は鎧のほうを見つめながら嬉しそうにあははと笑い、そして言う。アル、アル、見て、アル、きもちいい、奥、きもちいいよ、アル。
「なんなんだよ……。誰なんだよ、それ……!やめろよ!もうやめろ!」
これはなにかの冗談か、それとも呪いか。いずれにせよ、この少女は確実にどこかおかしい。まさか何かしらの宗教の儀式に参加させられているのかと、胸の中の焦りが募る。しかし熱く狭い膣が性器を引き千切らんばかりに締め付けてくるものだから、快感で腰が止まらない。こいつは悪魔なのだろうか。美しい見てくれに騙され罠にはめられた自分は、限界まで精を搾り取られ死に至るのだろうか。
「ひぁ、アル……あっっあ……っはっぁんっ……あつい、あついよアル……ははは……はははは、アルぅっ!」
「なんなんだよ!なんなんだよ、お前は!」
最後に激しくもう一突きして、少女の中へ思い切り精を放った。額に滲んだ汗がこめかみを滑り、少女の機械の肩へ落ちる。少女もまた達したのか、腰をがくがくと震わせながら、まだ弱々しく笑い続けている。
「……悪魔……悪魔だ、お前は!」
少女の身体から性器を引き抜くと、今の今まで繋がっていた身体をベッドへ投げ捨て、先ほど脱ぎ去ったシャツに手を伸ばした。大慌てでそれを纏い、脚にズボンを引っ掛けると、一目散へ扉に向かい、アパルトマン中が目を覚ましそうな物音を立てながら外へと逃げ出した。
「……姉さん、だいじょうぶ?」
男が去ってしばらくしたあと、すっかり静寂の底へ沈んだ部屋に、穏やかな声が響いた。子供のものとしか思えないそれは、どこか金属めいていて、人間の口ではなく古いスピーカーから発せられたようだった。
「だいじょうぶ、だよ。はは……あいつ、オレのこと悪魔、だって。ちゃっかり中に出したくせに」
そう言ってベッドから身を起こした先ほどの少女は、迷いもせずに壁際の鎧を見る。顔は涙と涎に汚れ、疲れた顔をしているが、先ほどよりもずっと安らいだ表情で目を細める。そんな少女の前で、ガチャリ、とまた金属の音がする。空洞で動かないはずの鎧の右腕が持ち上がり、少女に向けて手を伸ばしている。
少女はひとつも躊躇うことなくそれを取ると、その補助を受けながらベッドを降り、床へ立ちあがる。ちょうど鎧の前、巨大なそれに向き合いながら、嬉しそうなほほえみを浮かべる。
「あんなにボクの名前を呼んだら、ボクらが誰かバレてしまうよ。それに、ボクが生きていることだって」
「大丈夫だって。あいつ、馬鹿そうだったし」
少女が手を滑らせると、それに応えるように鎧は腕を伸ばし、少女の頬へ手のひらを当てる。親指の腹でそっとこめかみをなでると、少女は毛づくろいされる猫みたいに、喉から心地よさげな声を出す。
「いっぱい出されたね、姉さん」
鎧の視線がどこを向いているかはわからないが、その声が示すとおり、少女の秘部からは先ほど飲み切れなかった精が溢れ出し、しなやかな太ももを滴り落ちている。少女が肯定するかのごとき笑みを見せると、鎧は頬から手を離し、濡れそぼった割れ目へ指を挿し入れる。それを予期していた様子の少女は、あっ、と甘い声を漏らすが、抵抗する様子はまるでない。
「……姉さんのここ、どんな感じなんだろう。きっと、とてもあたたかくて、心地いいんだろうね」
子供が夢想するような口調で鎧は言い、ぐちゅぐちゅと音を立てながら、少女の奥へ指を埋めてゆく。少女は震え始めた身体を支えるために鎧の腕に縋りつき、火照った声で、アル、アル、と呼び続ける。それに応えるように、鎧は休ませていた手を持ち上げて、少女の震える乳房の表面を大切そうに指でなぞる。
「お乳も、つやつやしてて、やわらかそうで、とってもおいしそう。この先端の桃色のところをね、ボクも舐めてあげたいんだ。飴玉みたいに舌で転がして、いっぱい気持ちよくしてあげるの。姉さん、ここをさわられると、とっても可愛い声を出すんだもの」
ね、と慈愛に満ちた声で語りかけ、親指でくいと先端を押し上げれば、予言どおりに少女は甘い声を出す。機械仕掛けの人形で遊ぶようにしばらくそれを楽しんだあと、鎧は少女の唇へふれる。
「キスも、たくさんしようね。毎日、何回でも、しようね」
そう言ったと同じくして、もう片方の手が少女の性感帯を探り当てたらしく、少女は縋るような泣き声を上げ、膝をガクガクと震わせる。もうひとりでは立てそうにない身体へ腕を回すと、鎧は自らのほうへ引き寄せる。
「ねえ、姉さん。ボクたちも、いつかひとつになれるかな。身体を取り戻して、姉さんといちばん深い場所で、繋がり合えるかな」
ねえ、姉さん。疲れ果てた少女は、自らにそう呼びかけるやさしい声にまどろみを誘われ、うん、と夢現の中でつぶやき、安らいだように目を閉じる。
「きっとだよ、姉さん」
そんな少女の額に貼りついた髪を掻き分けてやりながら、表情に虚だけを宿した鎧は、きっと、きっとね、と、いつまでも繰り返す。