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 どこからか響いた声に気を引かれ仰ぎ見ると、そこには果てしのない蒼穹が広がっていて、そのまぶしさにくらりと眩暈を覚えた。
 雲ひとつない晴天は高く、どこまでも平穏で、はるか遠くを浮遊する鳥の姿がくっきりと浮かび上がっている。先ほどの声は彼のものだったのだろうかと思案していると、前方から「アルっ!」と名前を呼ばれた。
「なにしてんだよ!はやく行くぞ!」
 あたかも昔に戻ったようにそう言って、姉さんは歩き出す。ブラウンの長いコートと、背中に流した金色の髪を風にはためかせて。その足取りは危なっかしく、杖を持たせているにもかかわらず今にも転んでしまいそうなものだから、ボクは慌てて駆け寄ってゆく。
 草原は先日の嵐の爪痕をそこかしこに残しながらも、ゆるやかな風に面をなでられ、やすらいでいた。安寧を絵に描いたような風景の中を、ボクたちは歩んでゆく。どこまでも、明確な目的地など持たないまま、どこまでも。
「姉さん、もうすこしゆっくり歩こうよ。転んでしまったら大変だよ」
 ボクの言葉に、えぇーっと子供じみた声を上げながらも、姉さんはボクが伸ばした手を握り返してくれる。機械の右手は冷たく、体温などありはしないけれど、それでもボクの心にぬくもりをくれる。
「あ、アル!みろ!ヒツジだ!ヒツジだぞ!」
 遠くに羊の群れを認めた姉さんは、大きな歓声を上げると、そのまま丘を駆け下りようとする。慌てて後ろから身体を掻き抱き、その動きを制止すると、姉さんは子供じみた声を上げ、ボクの腕を振り払おうとする。
「姉さん、落ち着いて!走ったら危ないから!」
「はなせ!はなせよ!アルのばかっ!はなせって!」
 ばかばか、と知能の低い子供みたいに繰り返し、左手に持っていた杖を地面に放り出すと、なんとかボクの腕から逃れようとする。しかしそれが叶わないとわかると、叫び声はぐずり声に変わり、ついには泣きながら地面に倒れようとするものだから、ボクは腹がつぶされないようになんとか後ろから身体を支え、自らも草原へ膝を着いた。
 先ほどまで平穏が満ちていた草原に、姉さんの泣き声が響き渡る。すっかり慣れっこになってしまったボクは、姉さんの暴れる身体をしっかりと押さえつけながらも、決して絶望に暮れたりはしない。ただできるだけ穏やかな口調で、姉さん、と呼びかけつづけ、このひとが疲れて抵抗を止めるのを待つだけだ。
 先ほど別れた医者のところでは、仕方なく鎧を抱かせてやったけれど、それはできればあまりやりたくないことだった。姉さんの身体に斜め掛けにした袋に入れているあれを抱かせてやれば、きっと姉さんはいくらか落ち着きを取り戻すだろう。しかしその姿を見るたび、ボクの心には暗雲が立ち込める。それは怒りであり、悲しみであり、敗北感でもある。そしてボクは姉さんに心の中で問いかける。姉さん、あなたが〈アル〉と呼んでいるのは、ボクとその鎧、一体どちらのことなの、と。


 あの晩、ボクの身体を取り戻したい一心で、姉さんは取り返しのつかない罪を犯した。
 封鎖されていた第五研究所。その真の役割と、事実を裏付ける囚人たちの姿。そして水槽に貯蔵された、大量の紅い水。
 鎧の身体のボクを捕らえたホムンクルスたちは、この命を盾にして、姉さんに賢者の石を造るよう命じた。そこに集められた、紅い水と囚人たちの命を使って。
 人間を犠牲にしてまで、もとの身体になんて戻りたくない。そう叫ぶボクの言葉に、姉さんは耳を貸してはくれなかった。そしてホムンクルスたちにそそのかされるまま、床に描かれた錬成陣に、己の手を重ねた。

 部屋中を満たす、白い光。その中に呑み込まれ、塵のように霧散していった囚人たちと、破裂した水槽からあふれ出した紅い水。やがてすべてはひとところに凝縮し、目もくらむほどにまばゆく紅い物体へと姿を変えた。
 ずっと探し求めてきた、万能の秘石。それを目にした姉さんの動きは、誰のものより速かった。ホムンクルスたちが動き出す前にその物体へ向けて駆け出すと、両の手を打ち鳴らし、その物体へと押し当てた。
 そしてボクの意識は鎧から剥がれ、門を通り抜け――気付いたときには、生身の肉体として、冷たい床に横たわっていた。

 傷の男と軍の襲撃により瓦礫の下に埋もれてしまったボクらは、どうやら死んでしまったものと判断されたようだった。しかし実際は、姉さんが咄嗟に錬成した狭い空間で、数日間じっと息を潜めていた。その間ずっと姉さんは、痩せ細ったボクの身体を、震える腕で抱きしめていた。
 やがて周囲から捜索の声や足音が消え去ると、ボクらは夜のうちに瓦礫の下にトンネル状の通路を錬成し、下水道へとなんとか脱出した。ボクは栄養失調のため自分で歩けるような状態ではなく、姉さんもまた右足首を骨折していたから、悪臭が立ち込める下水道を抜けるのにさらに数日を要した。そしてやっと大都市の地下を抜け出し、郊外に立つ納屋へと身を横たえたとき、姉さんは堰を切ったように泣き始め、ボクに謝罪を繰り返した。ごめん、ごめんな、アル、と。
 それが具体的になにに対する謝罪なのか、姉さんは口にしなかった。だからこそボクには、姉さんがどれだけのものを背負ってしまったのか、余計に理解できたような気がした。

 それでも姉としての責任感だけを原動力とするかのように、姉さんは甲斐甲斐しくボクの世話をつづけた。納屋にあったもので服を錬成し、どこかから食べ物を盗んでくると、自分は二の次でなんとかボクに食べさせようとした。納屋の主が帰ってきたときは姿を見られる前に気絶させ、ボクに肩を貸しながら、また別の場所へと移動した。言葉数は少なかったけれど、あのころはまだボクの瞳を真っ直ぐに見て、アル、と確かな声で呼んでくれていた。
 そんな生活を数ヶ月ほどつづけ、ボクがやっと杖さえあれば歩けるようになったころから、姉さんの様子は明らかにおかしくなっていった。
 以前は誰よりも鋭い光を放っていた瞳から力が消え、虚空を見つめてぼうっとしていることが多くなった。かと思えば急に地面に突っ伏して、ごめんなさいと繰り返し、呼吸を詰まらせるほどに烈しく泣きじゃくった。その謝罪の対象はボクであることが多かったけれど、母さんや師匠、幼馴染やその祖母、果てにはあれだけ憎んでいた父さんに向けて謝りつづけることもあった。
 そんなとき、ボクがなにかしらの言葉をかけてあげることができれば、結果はまた違ったのかもしれない。けれどボクには、どんな言葉をかけたらいいのかまるでわからなかった。ボクの身体を取り戻すため、三十人ほどの囚人の命と、紅い水に宿る命を犠牲にした姉さん。ボクがあれだけやめてと叫んだのにもかかわらず、ボクの懇願よりもホムンクルスたちのささやきに耳を貸した姉さん。そのことに感謝を述べることも罪を戒めることも酷い誤りである気がして、ボクはただ、泣いて震える姉さんの身体を抱きしめた。咄嗟の判断でボクの身体だけを取り戻し、まだ機械の手脚をぶらさげたままの身体を。ろくに食べてもいないものだから、もともと細い身体は憐れなほどに痩せ細り、そのときにはもう、ボクのほうが肉付きがいいほどになっていた。

 ボクたちは行方不明、または死亡扱いになっているのだと思っていたが、ある日町で拾った新聞で、殺人犯として指名手配されていることを知った。きっとホムンクルスたちが賢者の石を奪われたことで怒り狂い、次こそなんとか錬成させてみせようと、ボクたちを探しているのだろうと思った。
 ボクの写真は鎧のままだったからあまり心配はいらなかったけれど、姉さんの写真はこれまで偽ってきた少年の姿のものだったから、いつも三つ編みに結わっていた髪を解き、機械の手脚を隠すために長袖のカーディガンとロングスカートを着せ、ブーツを履かせた。
 そのころになると、姉さんはまともに言葉を発しなくなっていた。ボクが服を着替えさせている間も、ただされるがままに腕を伸ばし、足を上げ、淀んだ瞳で虚ろを見つめていた。
 そしてボクらは、姉弟として再び旅を始めた。幸いボクらの身体は発育があまりよくなかったから、本来の十六と十五という年齢よりもずっと下に見られることが多く、正体を突き止められることはなかったけれど、軍人が多いところは避け、日陰から日陰を渡り歩くようにして過ごした。

 そんなある晩、また突然涙を流し始めた姉さんが、久しぶりに言葉を発した。アルがいない、と。
 姉さんは、盲いた者がなにかを探し回るように地面を探り、アル、アル、と繰り返しながら、よろよろと部屋を這い回り始めた。ボクは呆気に取られ、震える声で言った。なにを言っているの、姉さん。ボクはここにいるのに、と。
 しかしその言葉が姉さんの耳に届くことはなかった。姉さんは壁にぶつかり、そのまま床へうずくまると、錯乱したように絶叫した。
 アル、アル、と泣き叫ぶ姉さんの身体を抱きしめ、ボクは言った。姉さん、どうしたの。ボクはちゃんといるよ。どうしてしまったの、姉さん。
 どのような言葉をかけても泣き止まない姉さんに動揺したボクは、ほんの思い付きで、その晩泊まっていた山小屋にあったケトルや鍋といった金属を材料に、鎧のころのボクの頭部を錬成した。すると姉さんは突如として目を輝かせ、ボクの腕からひったくるようにして鎧を掻き抱くと、アル、アル、とささやきながら涙を流し、愛おしげに頬ずりし始めた。
 その姿を見て愕然としながら、思った。
 ああ、このひとの心は、ついに決壊してしまったのだろう。
 自らの犯した罪の重さに耐えきれず、まるで積み木で作った家みたいに――ばらばらになってしまったのだろうと。

 それ以来、姉さんの様子はすっかり変わってしまった。子供のように指を咥え、稚拙な言葉をしゃべり、そしてよく笑うようになった。普段はボクを見て、アル、と呼んでくれるけれど、機嫌が悪くなったり恐怖を感じたりすると、鎧の頭を与えない限りぐずって泣きつづけた。
 ボクにはわかっていた。姉さんにとって、ボクの肉体はいちばん直視したくない罪の象徴なのだろうと。だからこそ、かつて別の罪の証だったはずの鎧の頭にすがりつき、それを我が子のように胸に抱くと、安らぎを覚えてほほえむのだ。ああ自分は、誰も殺してはいなかったのだと。
 姉さんは言葉にこそしなかったけれど、目の前の人間たちの命を代価にボクの身体を錬成したことを、深く悔いていた。一方、そうして悔恨を抱くこと自体が、ボクに対する愛への冒涜だと、酷く思い悩んでいた。背反するふたつの罪悪感の狭間でもがき苦しみ、ついに限界へ達したとき、姉さんはその身を生かそうとする生存本能に自らを委ねた。
 それは崩壊であり、救済でもあった。姉さんは囚人たちの命を奪ったことも、母さんを錬成しようとしたことも、それどころか母さんというひとが自分の人生に存在していたことすら忘れ、毎日を朗らかに過ごし始めた。――決して罪の記憶から逃れられはしない、ボクのことを置いて。



 どうしても泣き止まない姉さんに苛立ちを覚え、地面へ仰向けに引き倒すと、姉さんは恐怖を覚えたのか、顔をぐちゃぐちゃにしてさらに烈しく泣き叫んだ。久しぶりに明るいところでまじまじと見ると、姉さんの顔の作り自体は以前よりずっと大人びていて、その下の首もやけに艶やかであるように思えた。
 吸い寄せられるような思いで白い首筋へ唇を押し付け、じゅうと強く吸い上げる。すると姉さんはいやぁっと子供じみた声を上げ、目尻からほろほろと涙をこぼす。
 背徳感に突き動かされながらワンピースの前開きのボタンへ指を掛けると、姉さんは本能的に危機を察したのか、どうにかして逃れようと身をよじる。しかし膨らんだ腹が重しとなって、うまく逃げることができていない。それをいいことに、ボクは難なくボタンを外し終えると、その下のシュミーズの胸元にわずかな染みが広がっていることに気付き、目を見張った。吸い寄せられるように両胸を布越しに握りしめれば、以前よりずっと重く張りつめたそれは、ボクの手のひらへずしりと圧し掛かり、同時に布の染みはさらに範囲を広げてゆく。ひくひくと嗚咽を繰り返す姉さんを慮ることなく、シュミーズ思い切りたくし上げると、外気にさらされた両胸の先端はぴんと上を向き、そこからあふれた透明な分泌物が、日のもとでてらてらと光って見えた。
 熱っぽく張った乳房の感触を手に馴染ませるように揉みしだき、ついに溢れ出した分泌物を舌で舐め取ると、姉さんの泣き声に艶が滲み始める。ふと思い立ち、ワンピースの裾から片手を差し込み下着越しに割れ目へ触れると、そこは失禁したのかと思うほどに湿りを帯びていた。――ほら、あなたはもう子供じゃないじゃないか。そんな怒りをぶつけるように、胸を強く吸い上げながら割れ目へ指を埋めてゆくと、姉さんはひっと喉をひきつらせ、恐怖から逃れようとするみたいに、瞼をきつくにじり合わせた。

 あの日も、そうだった。
 床へ縫い付けられ、服を引き剥がされながら、姉さんはひくひくと喉を震わせ、瞼を強く結んでいた。本来は白いはずの肌を真っ赤に染め、目尻から絶え間なく涙をこぼし、恐怖で身体を震わせていた。
 最初はぎゃあぎゃあとけたたましく泣きじゃくっていた姉さんが声を潜めたことで、もう声も出せないほどに怯え切っているのだとわかったが、ボクはそんな姉さんを容赦なく犯し尽くした。裸に剥いた身体の上に跨り、手押し車のように両脚を引き上げると、体内のいちばん深いところへ力任せに己のものを打ち付けた。姉さんは律動に合わせて細切れに声を上げるばかりで、それが快楽ではなく痛みによるものだとわかっていたけれど、ボクは決して止めようとは思わなかった。
 だってボクたちには、代価が必要だった。ボクたちが決定的に失ってしまったものたちを、埋め合わせるための代価が。
 ボクは姉さんにもとに戻ってほしかった。たとえその願いが姉さんに再び苦しみをもたらすとしても、罪を一緒に背負ってほしかった。空っぽの身体でともに旅をしていたあの四年間のように、ふたりで辛苦と絶望に心を引き裂かれながらも、それを絆と呼んでいたかった。

 姉さんは子を宿し、だんだんと膨らんでゆく自らの腹部を、不思議そうに眺めていた。そんな姉さんを連れて、ボクはまた、暗闇から暗闇を渡り歩いた。
 先ほど別れを告げた医者は、最後にこう言った。このまま出産までここで過ごしたらどうですか、と。姉さんの身体のことを考えると、その申し出は確かにありがたいものだった。それにあの医者は、ボクらと同じく後ろ暗いところがある医者だから、通報される心配もなかった。彼はかつて、劇薬を用いた違法な人体実験を行い、医師免許を剥奪された身だったからだ。
 それでもボクには首を縦に振ることができなかった。だってボクにはやらなければならないことがある。姉さんが出産のときを迎え、子を産み落とすその瞬間に。もしもそれを邪魔されるようなことがあれば、ボクは彼のことを殺してしまうかもしれない。そんなことをすれば、ボクたちの負債がまた増えてしまう。
 赤子の命を犠牲にするという選択も、酷く倫理に悖るものであることはわかっている。きっと、心やさしい幼馴染が知れば、ショックで色を失い、やめてくれと懇願するだろう。
 それでもボクは取り戻したい。姉さんとボクの間に、確かにあったものを。ボクたちを分かち難くする、罪という名の結束を。そのために生み出した命を目的どおりに使ったとして、誰に文句を言われる筋合いがあるだろうか。あのときホムンクルスのひとりが言ったとおり、人体錬成にほかの人間の命以外、役に立つものなどないのだから。

 熱く濡れた肉壁の狭間から指を引き抜き、胸を掴む手の力をゆるめると、姉さんは恐る恐る瞼を押し開き、ボクを見た。その眼前に愛液のしたたる指を掲げ、できるだけやさしく「舐めて」と言うと、姉さんは怯えながらも唇を開き、ボクの指を口内へ含んだ。
 熱く濡れた粘膜の感触に神経を震わされながら、かつてボクがまだ鎧だったころ、姉さんがボクの手に愛おし気にふれ、くちづけてくれたときのことを思い出す。あのときのボクは、姉さんの唇のあたたかさもやわらかさも感じられなかったけれど、ボクたちの間にあったものはもっと明快で、純粋なものだったように思う。
 あのときにもらった愛を返すような思いで、ボクは姉さんの額へキスを落とす。ひとつ、ふたつとこめかみへくだってゆき、頬へくちづけるころになると、姉さんはボクの指から口を離し、涙に濡れた金の瞳で不思議そうにボクを見た。
「……行こう、姉さん」
 ずり上げたシュミーズを下げて胸を覆うと、ワンピースの前のボタンを留める。姉さんは呆けた顔でこちらを見るばかりで、ボクが背中に手を当てゆっくりと抱き起こすと、もう先ほどのように泣き喚くことはしなかった。
 今度は身体を支えてやりながら、ふたり同時に立ち上がる。地面に落とした杖を拾って左手に持たせてやると、姉さんが斜めにかけた袋に柄が当たり、中の鎧がかすかな音を立てる。

 ボクたちはまだ、代価を支払いつづけている。
 あの日取り戻そうとした、母さんの命に。そしてその罪を贖うために犠牲にした、数多の命に。
 失ってしまったものを、完全な形で取り戻す術などない。欠落を埋めるには、新たな代価を用意するしかない。罪には新たな罪を。命には、新たな命を。
 果たしてこの選択は、正解なのだろうか。これはまた、新たな喪失を生む火種でしかないのではないだろうか。
 それでもボクたちに、歩みを止めることなどできはしない。きっと命が尽きるその瞬間まで代価を支払いつづけるのだろうとわかっていても、ボクたちはその円環の中に、互いを繋ぎとめ合うことしかできない。それこそがボクたちに課された真の罪であり、そして、ボクたちが呼吸をつづけてゆける理由でもある。

 行こう、ともう一度声を掛けながら手を差し伸べると、姉さんは素直にボクの手を握りしめた。不安げに向けられた瞳が、どこへ、と問うている気がして、ボクは思わず目を逸らす。
 どこへ向かうのかなんて、ボク自身にもわからない。
 それでもただひたすらに、歩んでゆくしかない。どこまでも、明確な目的地など持たないまま、どこまでも。
 いつかきっと、すべての罪から解き放たれる日が来ることを夢見ながら。
 ボクたちはいつまでも、この手を離さないでいられるための代価を、払いつづける。




『いのちの代価』