人形あそび
たとえば、あのひとがふいに記憶を取り戻し、もとの世界へ帰りたいのだと泣いたとき、この部屋から出たいのだと駄々をこねたとき――そんな日の晩、僕は必ず夢を見る。
それはあのひとが行ってしまう夢。まるでこれまでの不自由が幻だったように、すらりと伸びた左脚で何事もなく立ち上がり、同じく生身の右手で、いつの間にか盗んだ鍵を使って扉を開き、さよならも言わずにここから去って行ってしまう夢。
そんな夢を見た晩は、必ず夜中に目が覚める。目覚めた僕は決まって酷く冷たい汗をかいていて、心臓は異常を知らせる警報のごとく駆けている。
しかし隣に、そこにあらなければならない肉体が横たわっていることを認めて、僕は安堵の息を吐く。寝る前と同じく、この腕にすっぽりと収まった小さな身体。レースのついた寝間着を身に纏っていることもあり、その姿は人形のように見えるが、わずかに上下する痩せた肩が、そこに命が宿っていることを示している。
ずっと憧れていた、美しいひと。初めて目にしたあの日から、ふれたくて、抱きしめたくて仕方がなかった、かわいいひと。その存在が今確かに、この腕の中にある。
カーテンの隙間から覗く月明りが照らし出した頬には、拳ひとつぶんくらいの痣がある。昨晩、錬金術のある世界に帰るなどというわけのわからないことを言って泣きわめき始めたこのひとを静かにさせるには、言葉を発せなくなるまで頬を叩くしかなかった。このひとの肌は白いから、痣が酷く目立ってしまって、見ているだけで痛々しい。本当は、僕だってこんなことはしたくないけれど、このひとを守るためだから仕方がない。
贖罪の気持ちを込めて頬にくちづけると、金色のまつ毛に縁取られた瞼が震え、わずかに開く。眠りから浮かび上がったそのひとは、眠たげに目を何度かしばたたかせ、暗闇の中であっても透き通る瞳で、僕を見上げる。
「……アル?」
言葉を返す代わりに、額へくちづけをひとつ、ふたつ。そのままこめかみまで下ってゆくと、くすぐったそうに身をよじる。
「起こしちゃったね。ごめんなさい」
「アル……ねむれないのか?」
「そうじゃない。ただ、すこし恐ろしい夢を見てしまって」
僕の言葉を受けて、そのひとは片腕だけでもぞもぞと這い上がってくると、再びぽすりと横たわり、リボンがほどけ広く開いた襟元から覗く胸へ、僕の頭を抱きかかえる。そのまま左手で後頭部を撫でてくる様子は、まるで幼い子供に大丈夫だと言い聞かせる母のようだった。鼻孔に満ちる、いとしいひとの肌の香り。ミルクを思わせる甘い香りが、母を求める本能を刺激し、喜びと懐かしさが胸を満たす。小ぶりながらもやわらかなそこへ鼻の先を押し付けて感触を味わうと、赤子のように先端を口に含む。
やわい部分に刺激を受け、そのひとはくんっと鼻を鳴らす。気付かないふりをして、今度は乳房を手で鷲掴み、絞るように揉みながら先端を強く吸い上げると、そこはぴんと硬さを増してゆく。
「ぁ、んっ……アル、アル……ッ!」
甘ったるい声で喘ぎながらも、そのひとは僕の後頭部に当てた指を離さない。その責任感の根源が母性本能なのか、それともまた別のものなのかを、僕は知らない。ただ、いじらしいその様子がかわいくて、胸の先端にしゃぶりついたまま小さな身体を転がすと、上から覆いかぶさり、今度は両胸を掻き寄せるようにして揉みしだく。
「アル……はぁ……んっ」
胸をさわられるのが好きなこのひとは、ここを刺激してやるとすぐに身体へ熱を灯し、たまらないといった様子で身をくねらせる。その期待へ応えるべく、中央に寄せた乳房の左右の先端を順番に口に含んでやると、限界だと言うように熱い気を吐く。
「アル、こっち、も……」
震える声でそう言って、寝間着の長い裾をたくしあげると、本来人目に晒してはいけないところを僕に見せてくる。そこはもうぐずぐずと湿っているものだから、僕は言いつけられたとおりに舌で慰めてあげる。するとそのひとは先ほどの比ではないほどの甘い声を上げ、呼吸を詰まらせたように白い喉をのけぞらせる。そこには頬と同じく痣が咲いていて、先日の諍いを思い出す。記憶の混濁で精神が不安定になり、「お前なんて嫌いだ」と叫んできたことに僕はつい逆上してしまい、その細い首を絞めてしまった。大人気ないとはわかっていたけれど、こんなに愛しているひとに嫌いだと言われることに、心がどうしても耐えられなかった。
未成熟な少女を思わせるつるりとした割れ目からあふれだす蜜をすすり、陰核を唇と舌でいじめてやると、そのひとの息づかいは段々と激しくなり、振り落とされまいとするかのように、無我夢中で僕の頭を掴んでくる。髪の毛を引かれる痛みに耐えながらも、さらに強く刺激を加えてやると、そのひとはついに身体をびくびくと痙攣させ、絶頂を迎えた。
「エドワードさん……僕にも、ね?」
抜け殻のように横たわる身体の上から退き、寝間着の下で極限まで張りつめたものを取り出すと、僕はそのひとにおねだりをした。普段は僕がこのひとの面倒を見るばかりなのだから、すこしくらい我儘を言ってもいいだろうという甘えからの要求だったが、それが伝わったのか、そのひとは先ほどと同じくなにかしらの責任感に駆り立てられたようにゆっくりと身を起こすと、素直にこくりとうなずいた。そして、いつかの〈制裁〉で歪に折れ曲がった左手を寝台につきながらふらふらと這い進んで来ると、後遺症により痙攣する指でためらいもなく僕のものを握りしめ、口の中へと咥えこんだ。
子供のように小さな口に対し、僕のものは大きすぎる。だからこそ精一杯に口を開き、苦しそうに頬を火照らせながらも懸命に奉仕する姿は、なにかしらの背徳感を呼び起こし、さらなる劣情をそそる。以前教えた通り、唇で周囲をできる限り締め、小さな舌を絡める努力はしているが、あまりにもたどたどしい。さらには苦しくなってきたのか、段々と動きが遅くなってきたものだから、小さな頭を両方から掴んで固定すると、喉の奥へと自分のものを突き刺した。
いきなり主導権を奪われた驚きと苦しさから、そのひとは言葉にならない呻きを漏らす。それにも構わず力任せに出し入れを繰り返し、喉の奥へごつごつと先端を押し当てる。ずっと憧れていた、美しいひと。初めて目にしたあの日から、ふれたくて、抱きしめたくて仕方がなかった、かわいいひと。そのひとに己のものを咥えさせ、涙と涎でぐちゃぐちゃになった屈辱的な姿を晒させているのだと思うと、言い知れぬほどの興奮がせり上がる。このひとはもう、僕のものだ。何処にも行かせない。誰にも奪わせない。僕の愛しい、頭のおかしなお人形。僕が一生この部屋の中で、外の穢れにふれさせることなく、愛してあげる。
その想いをぶつけるように一際強く最奥へ先端を押し付けると、咽頭がぎゅうと締まった感覚に耐え切れなくなり、そのひとの口の中へ精を放った。苦しさから口を離そうとする小さな頭を固定して、最後の一滴まで注ぎ込むと、そのひとが喉を鳴らしてそれを飲み込んだことを確認する。あまりの快感に脳が痺れるのを感じながら、力を失ったものをずるりと引きずり出すと、押さえ付けていた頭をやっと解放してやった。
強制的に喉へ液体を注ぎ込まれた苦しさに嘔吐き、飲み切れなかったものをベッドに吐き出しながら、そのひとは肩を揺らす。
「エドワードさん」
その姿を見ながら愛しさをこめて名前を呼び、垂れ下がる金色の髪の一房を指ですくいとってやれば、そのひとはこちらを見る。涙にとろけた瞳で、口と鼻から精を垂れ流した惨めな顔で。
「愛してる。僕がここで、ずっとあなたを守ってあげる」
そう告げると、そのひとはもうその意味がわからないというように首をかしげながらも、最後はこくりと、機械人形のようにうなずいた。
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