「君は私のなにに怯えているのかね」
男がそう問うたとき、少年は金色の瞳を強張らせて、フォークを口に運ぶ手を止めた。
「……別に怯えてねえよ。あんたになんか」
そして独り言のようにそうつぶやくと、食事を再開し、それから一度も男のほうへ視線を返すことはなかった。
男も仕方がなく少年から目を逸らすと、窓の外へ視線を向けた。食事はすでに終えてしまっており、あとは少年が食べ終われば用事は済むはずだった。同僚でもあり親友でもある男に、後見人になったならもっとこの子どものことを知って交流を深めておけとうるさく言われ、仕方がなく設定した食事だったが、食事をタダで食べさせてもらう立場なのに、少年は最初から喧嘩腰で、碌に視線を合わせようともしなかった。
才能を見初めて田舎から引っ張ってきた子どもだったが、男は早々にうんざりとした気持ちを覚え始めていた。もともと子どもが得意なわけでもないし、素直で人懐っこい子ならまだしも、このように毛を逆立てた猫のような反応ばかりされれば、誰でも嫌気がさすだろう。
そろそろ食べ終わるころだろうかと横目で見ると、ナイフを握る少年の右手を覆う手袋の裾から、金属の腕が垣間見えた。最初に会ったとき、手脚を失いベッドに横たわっていた少年。その姿を目にした途端、自分の中でとっくに冷え切ったはずの感情が、わずかに疼いたことを、ふと思い出す。
そのとき、店内にひしめく客たちの話し声をすり抜けて、奥のピアノから耳覚えのある旋律が流れてきた。視線を向けると、スーツ姿のピアニストがちょうど歌い始めるところだった。——忘れ得ぬ人、それがあなた。忘れ得ぬ人、近くても、遠くても——……。
ピアニストの深い声は、店内のざわめきをヴェールのごとく包み込んでいった。彼がちょうどワンコーラス歌い終えたとき、目の前の子どもは蚊の鳴くような声で、ごちそうさま、と言った。
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